特許はただ単に取得すればよいものではない。ビジネスにしっかり貢献する内容をもっていなければならない。しかし、他社との競争が激しい分野では、通常、先行技術が多数存在する。その中で有効な権利を獲得するにはどのようにしたらよいか。

新規切り口の探索

以下の話はいずれの技術分野にもあてはまるものであるが、ここでは化学分野の発明を例に挙げて説明する。
複数の市販材料を適切な組成比で配合して良い素材(組成物)を開発したとする。配合の妙によって今までにない性能が得られたのであれば、その配合自体は基本的に“点”である。最適な組成物をそのまま配合の発明ととらえると、広く請求項を書けば従来技術と差別化できない、差別化しようとすれば“点”に近い狭い権利しか狙えない、というジレンマに陥る。

しかし、開発した発明は本当にその配合だけだろうか。開発した発明は、本当はもっと広いものであり、いま得られた配合はその具現化した例のひとつといえるのではないだろうか。

到達した解(ここでは配合)だけに目を向けると有効な権利獲得が困難になることが多い。有効な権利化を図るには、到達した解を洞察し、出願の「切り口」を充分に考えてみることが重要である。開発した発明は、先行技術とは異なるコンセプト・機能を有するものであって、先行技術とは大きく異なるもののはずである。開発品をいままでと異なる視点で眺めてみれば先行技術の少ない切り口が必ず見つかるはずである。切り口としては、用途を限定する、発見した配合がもつ性状や機能、所定の形状に加工した後の特性等をパラメータで表現する、用途とパラメータを組み合わせるなど様々なものが挙げられる。

図1は、こうした切り口を探すときの考え方を示す概念図である。

図1


プレシオの提案する発明発掘

しかし、先行技術と差別化できる切り口であって請求項に記載する適格性を有するものを発見することは必ずしも容易なものではない。

新規な切り口を発見するプロセスは、発明の本質を探る、発明発掘のプロセスにほかならない。ただし、知財化を目的とするものであるから、技術的観点だけでなく知財の観点からの考察も必要となる。

プレシオ国際特許事務所では、こうした新規な切り口を発見して特許出願につなげる活動として、研究者、知的財産部および弊所弁理士の3者によるブレーンストーミングを推奨し、多くの成果を上げてきた。

一般にブレストで成果を上げるには、その形をとればよいというものではなく、発掘力のあるコーディネータと上手な運営が不可欠となる。良いブレストを行えば、実施前には予想もしていなかった大きな成果をあげ、本当に有効な権利の取得に結びつけることができる。

プレシオ・スタイルの発明発掘には幾つかのポイントがある。
それらのうち、基本となる2点のポイントを挙げる。

「技術者の視点から特許視点への転換」について

技術者の目線で特許出願すると、なかなか広い権利を取得できないこともある。その大きな要因は、技術に対する評価の仕方、とくに比較する対象が違う、ということである。

技術者(研究・開発業務に従事する方々)にとって、開発技術の比較の対象は「顧客の要求水準」または「他社製品」である。技術者は、毎日、顧客の要求水準を満たすもの、他社製品を上回るものを生み出そうと努力している。比較の対象は、本能的に、「顧客の要求水準」または「他社製品」となるのである。

しかし、特許出願の審査における比較の対象は「先行技術」である。
比較の対象が違うのである。

図2を参照いただきたい。図2左上~中央は、特許出願提案がなされるときの一般的な状態を示す図である。

図2

優れた性能を示す技術を見いだしたとき、その製品には様々な技術要素が含まれているはずである。この製品について技術者の目線で特許出願しようとすると、以下のようなフィルターが入る(図2中央)。
・良い性能に直結する技術
・オリジナリティのある技術
・従来技術になさそうな技術
・普通は考えつかないような技術
技術者の方々がこのように考えることは、業務内容からみれば当然であり、健全なことである。
このようなフィルターを外し、”開発した技術”を"事業に貢献する権利”に昇華することは、知財専門家の役割である。知財専門家の役割は、図2の右下のように、出願のまな板に乗らずに見逃されてしまった技術にも光をあて、新規な切り口を見いだすことにある。

「様々な手法を駆使した新規切り口の提案」について

新規な切り口を見いだして特許出願するには、
新規切り口を提案できる、強力な提案力のある弁理士が必要であるとともに、
上記プロセスによる出願をしようという動きを作り出す社内のキーマン※1が必要となる。

※1 社内のキーマンは、一般的には、知財部があればそのスタッフ、知財部がなければ開発や企画の担当者が担当する。

新規切り口の提案は、決して簡単なものではない。
開発技術の周辺技術を熟知し、開発内容に踏み込んで考えること、
その技術を製品に適用した姿をイメージできること
が前提となる。そして、様々な発想法の手法を駆使しつつ、自らの開発経験や発掘経験を応用しながら、提案を行う。

その上で、社内の事情、業界の状況等様々な要素を踏まえ、発掘した出願要素の事業上の価値(現在~将来にわたっての)を考慮し出願要素を抽出する。この段階では社内のキーマンの役割が重要である。自社にとって本当に必要なものは何か、将来この業界で必要となるものは何かを把握し、出願要素の取捨選択を行う。自社の権利取得の方向性を決めるにあたっては、最終的には社内のキーマンの主導が必要となる。

通常の出願プロセスとプレシオが提唱する出願プロセスとの比較を図3に示す。

図3


プレシオの発明発掘の実績

A社様
法規制により販売方法が大きく変化する業界において、今後のビジネスの展開、拡張を考え、このビジネスを続けるにあたって必要となる出願要素を洗い出し短期間に網羅的な出願を完了。数多くの権利に導いた。これらの権利は強力な参入障壁を築いた。また、これらの出願はその後の他社特許出願の審査において何度も引用され後願を強力に排除した。

B社様
与えられた課題は、自社のビジネスの障害となる特許をもつ競合他社に対して対抗できる状態を作ることであった。優れた性能を実現した自社技術の特質を深掘りし、その本質を把握した上で、競合他社が使用せざるを得ない技術を侵害確認容易な形にして複数の出願、権利化を果たす。競合他社に対して互角に渡り合える状態を早期に実現。

C社様
開発部門の月例検討会に参加。 技術者からみればまず特許出願しようとは思わないものを拾い上げ権利化の見込みが高いものを絞り込んで効率よく特許出願した。早期審査請求も併用。最終的には競合他社をけん制する強力な特許網を構築した。

D社様
使用する原材料が限られた中で配合品を開発する業態。組成の最適化が技術の本質。しかし、最適化した配合だけに注目しても、上述した理由により、有効な権利獲得が困難な状況であった。そこで、最適化した配合をその下流側の製品からみた観点で発明を把握し、出願要素を複数抽出。充分な排除力を有する参入障壁を形成した。